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回転木馬のデッド・ヒート  村上春樹@優れた文学の示すモノ

2014-08-15 | 22:09

文学と娯楽小説の違いとは何か?
単純に文学は高尚で、娯楽小説は他愛もない読本?
そんな話ではないですよね。
この二つの分野は同じフィールドで行われるが、力の方向性が違う。

陸上にたとえるなら、走り高跳びと幅跳びの違いみたいなものか。
優れた跳躍であってもそれぞれ異なり、どちらが偉いというモノでもない。
上質な娯楽小説なら、読んでる間ハラハラドキドキ、読者がああオモシロかったと本を閉じてくれればまずは成功だろう。
では文学ならどうか?
この短編のレーダーホーセンは一つの答えを出しているのではないか?
曰くそれは深淵の提示である。
何気なく歩いている我々の足下に、ふっと口を開けて待っている深い闇。
覗いても底は見えずにただ茫漠と風が吹いてくるだけみたいなモノだ。
妻は何故、唐突に夫への憎しみを自覚したのか?

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中国行きのスロウ・ボート 村上春樹@最初の短編集の出来栄えは?

2014-05-10 | 21:28

先日、また新しい短編集を出した春樹村上氏のこれは最初の短編集です。
時期としては1980年から82年に書かれていて、長編とのからみで言うと、「1973年のピンボール」の後に書かれた四篇と、「羊をめぐる冒険」の後に書かれた三篇で構成されている、と序文に書かれています。

今と共通する味わいを持った作品が並ぶのですが、最初の作品集故か中には、え、これで終わり?というしり切れ感があるモノもあり、短編なのに冗漫な感触のあるモノありなど、全体に「意あっても力足らず」とうか、うーーん、なんだかもっと巧く行かないのかな、という春樹村上氏の声が聴こえてくるような気がしてきて、手際というか小説技術については今ほどの手練れ感はありません。

ま、そりゃそうだよね。
30年以上も前の作品ですから。
しかし時に表出させられる村上春樹さんならではの、瑞々しい鮮やかな手ごたえは充分で、1冊の短編集としては非常に堪能出来ましたね。

特に「午後の最後の芝生」にそそぐ夏の光のきらめきは目を細めたくなるようだし、「土の中の彼女の小さな犬」に降り注ぐ雨の湿気は、肌にまといつくよう。
「貧乏な叔母さん話」に出て来る女の子の未来像の残酷さには、はっとしないわけにはいかない。

以下、ちょっと略するけど、詩情に満ちた素晴らしい暗喩をひとくさり
「そしてある日、山手線の車両の中でこの東京という街さえも突然にリアリティーを失いはじめる。
ここは僕の場所でもない。言葉はいつか消え去り、夢はいつか崩れ去れるだろう。あの永遠に続くように思えた退屈なアドレセンスが何処かで消え失せてしまったように。何かもが亡び、姿を消したあとに残るものは、おそらく重い沈黙と無限の闇だろう。
誤謬・・・、誤謬というのはあの中国人の女子大生が言ったように結局、逆説的な欲望であるのかもしれない。どこにも出口などないのだ。・・・略@中国行きのスロウ・ボートより」
こういう文章は未だ春樹村上氏以外書けないよね。

Theme : 読書メモ
Genre : 学問・文化・芸術

さくら壮のペットな彼女@素晴らしい青春ドラマだったんじゃないか

2013-10-20 | 22:36

原作はお粥なのに何故かサムゲタンが出て来て大炎上したこのアニメ。
ネトウヨの私は録画も止めていたんですが、ちっとも残念じゃなかったです。
なんとなれば放映前から流されていた宣伝文句が、「自分じゃパンツもはけない美少女」という、なんか実も蓋もないというか、恥も外聞もないのか、という安易な萌え狙いに感じられたからね。
美少女のパンツって言えば飛びつくと思われるのは心外だよ。

ま、そのレベルの作品ならなかったことでイイやと思っていたんですが、某所からコレは原作イイ話なんだぜ、という話を聞いて試し読み。
最初のウチはスラスラ読めるいわゆるラノベだなあ、でしたが、巻が進むに連れ安易な萌え狙いのハーレム話でないのが伝わってきた。
さくら壮の住人それぞれが全力で精一杯生きていくんだ、という姿勢が伝わって来て感動的だった。
各々に、喜びがあり、悩みがあり、不安があり、悲しみがある。
挫折があってもみんな手に手を取って一緒に乗り越えるんだ、というまあ、この手の話のお約束と言えばその通りの展開なんだけど、文句なく心動かされた。
結局、フィクションというのは、物語る中で同じ気持ちにさせてしまえば書き手の勝ちだよね。

七海の挫折とか、不条理な現実への空太の怒りとか、美咲先輩の優しさとか、ああ、分かるなあ、とつくづく思わされて、なんだパンツとか関係ない、素晴らしい青春学園ストーリー小説ではないか。
手に手を取れる仲間がいて、表現の世界へ挑戦できる・・・なんか夢のような青春の一時期を非常に巧く描き上げた作品でしたね。

Theme : ライトノベル
Genre : 小説・文学

夏・風・ライダー(下)高千穂遥@一瞬の夏、そして永遠の夏

2013-06-26 | 22:24

爽やかな青春ストーリーの趣きがあった上巻に比べると、下巻はいよいよ近づいて来る鈴鹿4時間耐に向けて、より本格的なオートバイ・レースの小説になっています。

一歩一歩進む耐久レースへの準備段階の描写は、リアリティに溢れかなり力の入った取材と体験が含まれているのではないか、と感じました。
まあ、レースを1本、やり遂げるのは大変だよね。
スピードが好きでも、私が結局近づかなかったのは、この現実について行けなかったからだ、と再認識出来ました。
そしてストーリーは苦い現実を織り交ぜながら、二転三転。
ツーリングに行って楽しいバーベキューをやって・・・そう、こういうことが待っているのが現実。

そしていよいよ本番のレースとなるのですが、伏線の生かしかたが巧かったです。
ああ、なるほど、こうきたか、という展開に、まずは拍手を送りたいです。
そう、こういう風にする以外、あのラストは不自然になるよね。
これも相当、実際のレースを体験、見聞なされたからこそ生み出されたストーリーだったと思います。
ラストの切り方もお見事。
そう、鈴鹿の夏は永遠であると同時に一瞬なんだろうな、と思う。

ps
作家、高千穂遥がいかに力量のある作家か、ということが分かる1作だと思うのですが、もうこの本は新刊では手に入らない。
バイク好きなら特に、相当オモシロイと思うんだけど、現実は厳しいですね。

私も古本整理していたら、未読の上下巻として出てきたので読んだんだけどね。
夏・風・ライダー〈上〉 (角川文庫)

Theme : 鈴鹿8耐
Genre : 車・バイク

アフターダーク 村上春樹@密度の高い詩情と明快なテーマ

2013-02-22 | 22:46

数人の登場人物を軸に、都会の一夜を描いた作品です。
カタチとしては単行本1冊分288pですが、読後は短編小説のような感触が残ります。
しかしこの齟齬を含んだカタチこそ、村上春樹という作家には良くマッチしていると感じました。

村上春樹は長編小説の評価が非常に高い作家ですが、どうも私は村上さん、作品が長くなるにしたがって、冗長さを感じてしまう。
作家村上春樹が最もテーマにしている事って、結局、この小説でも語られている「普通の世界の隣で、ひっそりと口を開けて辛抱強く待っている邪悪な存在」ということですよね。
それはある時は顔のない男であり、バイクに乗った中国人のマフィアであり、深夜に作業するトップ・プロのサラリーマンであり、あの子を追いかけてくる誰か、ということでしょ。

我々はこの世界でそんな存在と同居していないとならないし、何気なくすれ違ったりもしている。
邪悪な存在は、我々が眠っている間にひっそりと見つめているのかもしれないし、コンビの棚の上で息をひそめて、執念深く貴方の背中を叩く瞬間を待っているのかもしれない。

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Theme : 村上春樹
Genre : 小説・文学

傷物語 西尾維新@大河小説シリーズの最初の最初は傑作!

2013-02-13 | 14:57

精緻にして雄大な構想。
魅力的なキャラクター。
ウイットに富んだ会話。
西尾維新は娯楽小説の天才ですね。

傷物語は阿良々木暦がキスショットと出会い、怪異との生活が始まって行く、まさにその最初の最初のストーリーです。
このシリーズは多くの魅力的な女性キャラクターが登場しますが、今回、出て来るのは羽川翼だけ。
後後大きな事件に巻き込まれ、諸々のストーリーでも道行となる彼女ですが、この巻ですでに濃厚なやり取りがあったのには驚きました。
彼女のある意味突出したキャラクターが良く出ていて、なるほどそれが後の話の伏線になっているのだなあ、と感じましたね。

そしてキーパーソンとして忍野メメが出て来る。
最初に化物語を観た時は、なんだか良く分からないキャラクターだな、と感じていたのですが、彼が出てこないとただの格闘物として終わっちゃうよね。
彼は狂言回しとして、ストーリーを膨らませ、立体的に、味を付ける必須のキャラだったのだ。

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Theme : ライトノベル
Genre : 小説・文学

鬼物語 西尾維新@冗漫な前半、泣ける幕切れ

2012-05-13 | 16:11

傾物語、囮物語、恋物語、と絶賛しつづけた西尾さんの小説でしたが、この小説に関しては、さすがに前半、ちょっとメタ小説へこだわりが、効果的というより邪魔な印象でした。
忍の話のテンポが悪く、冗漫な印象で退屈してしまった。

それでも後半、舞台が山中に飛ばされてからは、読者にページを繰らせる力、立派に蘇ります。
新たなエピソードを予感させる人物も登場で、前半の伏線は巧みに回収され、
幕切れは鮮やかで哀しく心に残るものでした。
そうして読み終えると、「彼女の顛末」を見届けることが出来たのだから、やっぱり読んで良かったな、読んでおくべき1冊だな、と思わせてくれる辺りは、さすがにプロの仕事の1冊ですね。

Theme : ライトノベル
Genre : 小説・文学

恋物語 西尾維新@悪趣味でもなく最悪の選択でもない。西尾維新の才気に瞠目する

2012-04-11 | 17:59

千石撫子がとてつもない蛇神となってしまった「囮物語」の解決編となります。
箱の表紙に「100%の悪趣味で書かれた」とあったり、ひたぎの選んだのは、「真っ黒で最悪の手段だった」、なんてありますが、なんのなんの。
嫌な野郎だと思っていた貝木泥舟の魅力がじわじわと伝わってくる佳作です。

それにしても西尾維新の才気は素晴らしい。
プロットは練り上げられ、キャラクターの魅力には目を見張るばかり。
随所で語られる言葉も実に印象的で心に残る。
「面倒臭い、という気持ちが、案外人の心を、一番に折るものなのだ。」とか
「根気というものを、大抵の人間は、思っている以上に持たないのだ。人間は怠惰なのだ。怠惰は愚かであるより厄介だ。人を殺すのは退屈でなく怠惰なのだ」
なんて凄いセリフだよね。
利口ぶっているだけの小説に、こんな真実はまず書けない。
そして終盤の千石撫子の人物像を解剖していく件ですね。
充分に「深い場所」まで降りていると思います。

メディア・ミックスの魅力も取り入れられていて、アニメ「化物語」のオーディオ・コメンタリーにあった

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Theme : ライトノベル
Genre : 小説・文学

傾物語カブキモノガタリ西尾維新@セリフ回しと伏線の回収、展開の妙は見事

2011-08-10 | 22:37

素晴らしいアニメ、化物語のDVDに入っているオーディオコメンタリーは、みなオモシロいのですが、一段と格別だったのが八九寺真宵ちゃん。
この本は不幸な事故で幼い命を散らした彼女を、阿良々木暦がなんとか救おうとするお話です。
ということで買ったのですが、最初の方はなかなか本題に入らなくてイライラ。
それでもなんとか会話のオモシロさに引き込まれ読み続くと、後半は驚きの展開が待っていました。

西尾維新がいかに会話に魅力を発揮するかは、アニメを観た方なら充分承知と思うのですが、この作品でもお見事です。

さらに驚いたのは、どうもこの展開は不自然な投げ出し感があるなあ、と感じていた部分がみんな伏線だった事。
これじゃあの展開は完璧だったんじゃあるまいか!

凄いな忍野メメ、じゃない西尾維新。
ここまで考えて書いていたんだ。
となると、今書かれていることも将来に続く伏線だったりするんでしょうかね?
そうしたら最後はいったいどうなるだろう?
西尾先生の構想力に今は期待だ。

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Theme : ライトノベル
Genre : 小説・文学

月光川の魚研究会 星野青 @特別の神秘、特別の恐怖、驚異の風景! 

2011-05-14 | 00:09

まだ途中なんですが、読んでいると見えてくる情景があまりに素晴らしくて圧倒されています。

毎日毎日、始終、本は読んでいるんですが、読みだしたらやめられなくなって、深夜に至ったのは久しぶり。

設定はビルの8階にある月光川の魚研究会というバーを舞台に、バーテンと客の語る一話完結の短編集。
プロローグの後、4月から始まって、月別に12カ月、最後のエピローグまでの14話構成のようです。

本を読む人になら、絵でも映像でもなく文字でしか伝わらない情景がある、ということをご存じでしょう。
この本は、読んでいると浮かんでくる情景に空前のものがあります。

4月の「夜桜の風葬」で描かれた、深夜の集落の中央にある一本の桜と完璧な井戸は、読後も長く私の中に残っています。
その特別の神秘性は、真にmagicalなモノがと思います。

5月の「潜水艇からの風景」は恐ろしさに震えました。
個人的にはこういう怖さを上質と感じます。
気取っているの、上品ぶっているのと言われても、スプラッターは嫌いなんです。
想像力の翼がはためいてこそ、ホラーですよ。

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Theme : アート
Genre : 学問・文化・芸術

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