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コーネルの箱 C・シミック

2008-09-21 | 09:30

退屈な日々につかの間の白日夢をみたいなら、読んでみて下さい。

この本は「箱の芸術家」ジョゼフ・コーネルの作品に、詩人のチャールズ・シミックが文章をつけた1冊。

コーネルは1903年生。NYの古書店や古道具屋で集めた写真やフィルムの切れ端、小物を自作した箱に入れた作品を制作しました。
病弱で芸術においては正式な教育も受けず、具体的技術もない彼が創造する霊感と愛に満ちた「箱の芸術」は、やがて見出され大きな評価を得ます。

シミックはベオグラード生まれの移民。
シカゴでジャズやブルースを愛好して、シュルレアリズムの詩人になりました。
コーネルの作品にシミックが短い文章をつける短章が60編ほど納められていますが、どれも「妄想に形を与えようとする懸命の企て」が成功し読者を、ふっとありえざる異界へと接触させます。

以下、コーネルの作品を語るシミックの言葉を抜書きすることにより一石二鳥を。
「代書人バートルビー」:仕事だけはしていた男が、働かなくなり、ただ壁を見つめ、食べることすら拒否して死んでいく話。

読後に強烈な不安を残す「群集の人:ポー」は、都会は象徴派のいう万物照応の森であり、その神秘に捧げられた大いなる詩歌だった。

ル・ピアノ:音符でくるまれたマッチ箱。海辺の別荘でセラフィーナは無音のピアノを弾いた。
目のためのささやかな夜の音楽。

すべての物には二つの側面がある。
目の前にある万人に見える面と、僅かな人が透視の瞬間に見える現世を越えた側面@キリコ

「この無限の空間の永遠の沈黙が私をおののかせる:パンセ」@パスカル

シュルレアリズムは、偶然を操ることから抒情詩が生まれるという驚くべき発見をした。
芸術とはすべて魔法を操ることだ。新たな幻を希う祈りといってもいい。
恐怖でさえ趣きとなる所@ボードレール「悪の華:小さく縮んだ老婆」

美とは、ありえないことが突然に実現することにつながっている。
我々はそれを前にして畏怖の念に立ち尽くす。ニーチェのいう「永い明るい沈黙:ツァラトゥストラは・・・」だ。
世界は美しいが言葉には出来ない。だから芸術がいるのだ。
芸術は人の魂を救い、迷路に棲む怪物であり永遠の友人の存在を浮かび上がらせる。

夢想の光は、薄暗い光であり、記憶は神性を帯びた像である。
夢想において我々が行っているのは、神々を創り出すことである。沈黙こそが神と話す唯一の言語である。

「いままで内気にふるまいすぎた」@独身だったコーネルの最後の言葉。
ピューリツァー賞作家と無垢なアーティストが生んだ深遠なる迷宮です。
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Theme : ART
Genre : 学問・文化・芸術

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