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夢十夜   夏目漱石

2006-04-26 | 16:09

良く知られたその穏やかな沈思の表情が文豪らしいのか、或いは文豪らしくないのか?
「我輩は猫である」などから難解な印象はない反面、エキセントッリクな刺激もないようで、子供っぽい感じすら持たれるかもしれないが、そんなレベルの作家ではないです。
実体は耽美を極める三島や川端ですら、端に避けさせるような文学の王道路線一直線の男

この小説は十夜というとうり律義に10話ある。
どの夢も深い。
深すぎて落ちたら二度と覚めることのない、永遠に埋没してしまうような怖れのある小説。
知られざる夜の都の底に沈んでいるような十夜の夢。


第一夜は、100年の時をまたごうとする性と死の寓話。
死ぬ事を伝える女に、ただ待つことを選ぶ男。
真珠貝は闇の中に鬼火のような光りを放ちます。

第二夜は、追えば追うほどせせら笑って逃げていく到達の幻影。
「誇り」が笑い者になる葛藤が真に迫る。

第三夜は、美しき本格派ホラー。
文豪はやすやすと恐怖小説の極点を描いてみせる。

第四夜は、「今になる、蛇になる、きっとなる、笛が鳴る」
漱石なら言葉を実体化出来るのだ。
「深くなる、夜になる、真直になる」
夜の川は夜の国に繋がっている。

第五夜は、この夢は神代の時代の戦に迷い込む。
恋の行方は敵となった天探女により奈落に落ちる。

第六夜は、運慶を題材に、ミケランジェロにも通じる説話で「芸術を生む奇跡」を夢みる。
「大自在の妙境」とは、こんな小説です、という同意反復でもある。

第七夜は、旅は常に期待と同じ位の不安も生む。
行き先の分からぬ船に乗り絶望するのは、人生への暗喩なのだ。

第八夜は、床屋という日常の縁をふと乗り越えると異界であった。
異界には見ようとしても見えないモノがある。見てはならないモノもある。

第九夜は、不在の父親の無事を祈る母子の孤独と不安の夜。
土塀の続く屋敷町の神社。人は夢のなかでもその運命の囚人なのだ。

第十夜は、善良な正直者の庄太郎は、女について行き延々と豚と戦うことになる。
時に夢は悪夢と可笑し味をない交ぜにし笑いと恐怖は分かち難く溶けあい化物の相貌を見せつけます。

今やこれだけの文章を書ける作家はいない。
これはカラバッジョの絵画やモーツアルトの楽曲のように、人類が再び創造することの敵わぬ領域の作品群です。
この短編集の凄味は時代を追って高まると思う。
オムニバスとして映画化してみたい1本でもあります。
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Theme : 文学・小説
Genre : 小説・文学

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